Share

第四章 禁忌の足音

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-12-15 10:55:26

 翌日、夕霧が持ってきたのは、寺の墓守に金を握らせて手に入れた「人骨」……ではなく、古い卒塔婆(そとば)の木片だった。さすがに人骨そのものを掘り出す度胸は、夕霧にも、そして墓守にもなかったのだ。

「ごめんよ、お龍さん。これくらいしか……」

「いいの。ありがとう」

 お龍は、風雨に晒されて灰色に変色した卒塔婆を受け取った。そこには戒名が書かれているが、すでに判読不能になっている。

 死者の魂が染み付いた木。

 お龍はそれを細かく砕き、炭にした。

 彼女の計画は少し変更された。他人の骨を使うのではない。やはり、自分のものでなければ意味がない。

 だが、生きている自分の骨を取り出すわけにはいかない。

 そこで彼女が目をつけたのは、「髪」と「血」と「爪」だった。

 古来より、これらは呪術的な意味を持つ身体の一部である。

 お龍は自分の長く伸びた髪を切り落とした。それを細かく刻み、漆のペーストに混ぜ込む。

 さらに、喀血した際の血を、丁寧に濾紙(ろし)で漉(こ)し、顔料であるベンガラの代わりに混ぜる。

 血の鉄分が漆と反応し、独特の黒味を帯びた赤色――「どす赤」に変色する。

「綺麗……」

 お龍はその色を見て、うっとりと呟いた。

 それは生命の色であり、同時に死の色でもあった。

 工房は今や、錬金術師の実験室の様相を呈していた。

 部屋の四隅には結界のように注連縄(しめなわ)が張られ、中央には奇妙な匂いのする壷が置かれている。

 清次が訪ねてきたのは、そんな時だった。

「……おい、この異様な雰囲気は何だ」

 清次は部屋に入るなり、眉をひそめた。

「新しい技法の実験中ですよ」

 お龍は短くなった髪を揺らしながら微笑んだ。痩せこけた頬、落ち窪んだ目、しかし瞳だけが爛々と輝いている様は、さながら鬼気迫る巫女のようだった。

「髪を切ったのか」

「ええ。邪魔だったから。……それに、材料にしたの」

「材料?」

「この漆の中に、私の髪が入っているの。あと、爪の粉末もね」

 清次は絶句した。

「お前……正気か? それは呪いの藁人形と同じじゃないか」

「違います。これは愛の形です」

 お龍は作業台の上の、作りかけの張形を指差した。

 それは三本あった。

 一本は、夕霧のための、滑らかで艶やかな曲線のもの。

 一本は、自分自身のための、とてつもなく太く、ゴツゴツとしたもの。

 そして最後の一本は……。

「清次さん。これは、あなたのためのものです」

 お龍が差し出したのは、細身で、しかし先端が鋭角的に尖った、まるで短刀のような形状の張形だった。

「俺に……? 男の俺に、どうしろと言うんだ」

「使うんじゃありません。持っていてほしいんです」

 お龍は真剣な眼差しで言った。

「清次さん、あなたは刀を抜けない。武士としての魂を、どこかに置き忘れてきてしまった。だから、私が代わりに彫りました。これは張形ですが、魂の『鞘(さや)』でもあります。この中に、私の強さと、あなたの失った誇りを封じ込めました」

 清次は震える手でそれを受け取った。

 ずしりと重い。

 芯に鉛か何かが入っているのだろうか。いや、これは「念」の重さだ。

 その表面は、お龍の血を混ぜた漆で塗られ、暗い赤色に輝いている。

「……お龍」

 清次は泣き出しそうな顔をした。

「お前は、自分が死ぬ準備ばかりしている」

「生きる準備ですよ。永遠に生きるための」

 その時、表で再び不穏な音がした。

 今度は、捕り手の足音ではない。もっと不規則で、ざわめきを伴う音。

 半鐘(はんしょう)の音だ。

 カン、カン、カン、カン!

 火事だ。

「火事だーっ! 根津の権現様の裏手だぞーっ!」

 誰かの叫び声が聞こえる。

 乾燥した冬の江戸。火事は瞬く間に広がる。

 お龍と清次は顔を見合わせた。

「逃げるぞ、お龍!」

 清次がお龍の腕を掴んだ。

「待って、まだ漆が乾いてないの!」

 お龍は叫んだ。漆は湿度と温度がなければ乾かない。今、動かせば、表面に指紋がつき、埃がつき、すべてが台無しになる。

「そんなこと言ってる場合か! 火の手が回ってくるぞ!」

「いや! これだけは、これだけは守らなきゃ!」

 お龍は三本の張形を抱きかかえ、頑として動こうとしなかった。

 その狂気。その執念。

 清次は一瞬、彼女を殴ってでも連れ出そうとした。だが、彼女の目を見て、手が止まった。

 彼女は、死ぬことを恐れていない。

 作品が未完成のまま失われることだけを、絶対的な恐怖として感じているのだ。

「……分かった」

 清次は覚悟を決めたように言った。

「俺が運ぶ。箱に入れろ。揺らさないように、俺が命がけで運ぶ」

「ほんとう?」

「ああ。俺の剣術は、人を斬るためじゃなく、お前の作品を守るためにあったんだと思えば、悪くない」

 お龍は涙を流しながら頷き、桐の箱に三本の張形を納めた。

 外に出ると、空は既に赤く染まっていた。

 熱風が吹き荒れ、火の粉が雪のように舞っている。

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

 人々が家財道具を背負って逃げ惑う中、清次はお龍を背負い、胸に桐の箱を抱いて走った。

「清次さん、重いでしょう……私を降ろして、箱だけを持って行って」

「馬鹿を言うな! 作者がいなくて、どうして作品が完成する!」

 清次は叫んだ。彼の足取りは力強かった。心因性の不能など微塵も感じさせない、立派な武士の足取りだった。

 しかし、運命は残酷だった。

 逃げ込んだ先の大通りは、既に火に包まれていた。

 炎の壁が、二人の行く手を阻む。

「こっちは駄目だ! 戻るぞ!」

 清次が方向転換しようとしたその時、崩れ落ちてきた燃える梁(はり)が、二人の間を分断した。

「清次さん!」

「お龍!」

 お龍は地面に投げ出された。清次は炎の向こう側だ。彼の手には、桐の箱がある。

「箱を! 箱をお願い!」

 お龍は自分の身の安全よりも、箱のことを叫んだ。

 清次は炎越しに頷き、「必ず守る! お前は川へ逃げろ!」と叫んで、煙の中に消えていった。

 一人残されたお龍。

 周囲は火の海だ。呼吸をするたびに、熱気が肺を焼く。

 ゴホッ、ガハッ!

 大量の血を吐いた。

 もう、走れない。

 お龍は、燃え盛る長屋の方を振り返った。あわい屋の方角だ。

 彼女の中に、奇妙な衝動が生まれた。

(私の仕事場。私の聖域。あそこで死にたい)

 彼女は川へ向かう人波に逆らい、ふらふらと、燃える家へと戻り始めた。

 それは自殺行為だった。

 だが、彼女にとっては「帰還」だった。

 盲目の猫、文はどうしただろうか。あの子もきっと、家に戻っている気がした。

 熱い。痛い。苦しい。

 けれど、なぜだろう。

 体の芯が、かつてないほど燃え上がっている。

 これは病の熱か、炎の熱か、それとも情熱か。

 お龍は笑っていた。

 口の端から血を流しながら、炎の中で狂ったように微笑んでいた。

「あわいの刻(とき)が、来たわ」

 生と死のあわい。男と女のあわい。

 すべてが灰になるこの瞬間にこそ、私の「恋骨」は完成するのだ。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   最終章 愛の解剖学

     西暦二〇二五年、東京。 初夏の日差しが、文京区根津の路地に降り注いでいた。 古い木造家屋と、近代的なマンションが混在するこの地域で、大規模な再開発工事が行われていた。 かつて稲荷神社があった場所も、新しい道路を通すために掘り返されていた。「おい、何か出たぞ!」 重機を操作していた作業員が叫んだ。 地中深くから、巨大な陶器の壺のようなものが現れたのだ。 現場監督が駆け寄る。 壺は重機の爪でひび割れていたが、中身は無事のようだった。「なんだこれ……? 骨か?」 壺の中には、黒く変色した奇妙な塊と、二本の木製品が入っていた。 数日後。 東京大学医学部、法医学教室。 無機質な解剖台の上に、その「塊」は置かれていた。 部屋の空気は冷たく、空調の音だけが響いている。 准教授の雨宮(あめみや)は、CTスキャンのモニターを食い入るように見つめていた。 彼女は遺物の分析、特に歴史的な出土品の人類学的解析を専門としていた。「先生、これ……すごいです」 助手の学生が、震える声で言った。 モニターには、黒い塊の内部構造が、輪切りの断層画像として映し出されていた。「これ、人間ですよね?」「ええ。成人女性。骨盤の形状からして、出産経験はない。年齢は二十代後半から三十代前半」 雨宮は画像を操作し、3Dモデルを構築していく。 肋骨、脊椎、頭蓋骨。 その骨格は、非常に華奢で、美しいバランスをしていた。「でも、見て。ここの部分」 雨宮が指差したのは、胸部のあたりだ。 そこには、人間の骨とは違う、小さな骨格が融合していた。「猫……ですか?」「そう。猫を抱いている。……それだけじゃないわ」 雨宮はさらに解像度を上げた。 炭化した皮膚の表面、そして骨の周

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   第十二章 雨の終わる場所

     時は流れ、明治の世が近づいていた。 ちょんまげを落とす者が増え、町にはガス灯が灯り始めていた。 文明開化の足音が聞こえる中、古道具屋「清」の灯りは消えようとしていた。 夕霧が死んだ。 流行り病だった。あっけない最期だった。 彼女は死ぬ間際まで、あの黒柿の張形を握りしめていた。 皺だらけになった手で、それを頬に寄せ、「ああ、お龍さんが迎えに来たよ」と微笑んで息を引き取った。 彼女の顔は、苦界に生きた遊女のものとは思えないほど、少女のように安らかだった。 残されたのは、清次ひとり。 彼ももう七十を超え、足腰は弱り、目も霞んでいた。 広い土蔵に、ひとりぼっち。 そこには、三つの「遺骨」がある。 炭化したお龍の像。 夕霧が遺した張形。 そして、清次自身の腰にある張形。 三つが揃った。「……そろそろ、しまい時だな」 清次は誰に言うでもなく呟いた。 このまま自分が死ねば、これらの品は散逸するだろう。 博物館に飾られるか、好事家のコレクションになるか。 だが、それはお龍の本意ではない。 これらは「見る」ものではなく、「使う」もの、あるいは「想う」ものだ。見世物にされることは、魂の陵辱に等しい。 清次は、最後の仕事に取り掛かった。 彼は、かつて「あわい屋」があった根津の跡地へ向かった。 そこは今、小さな稲荷神社になっていた。火事の犠牲者を弔うために建てられたものだ。 夜陰に乗じて、清次は社の床下に入り込んだ。 かつて、夕霧がお龍を隠そうとしたように。 彼は土を掘った。 深く、深く。 そこは粘土質の層で、湿気を帯びていた。 この湿気が、漆を守る。 清次は、特注の陶器の甕(かめ)を用意していた。 その中に、炭化したお龍の像を安置する。 そして、その左右に、夕霧の張形と、自分の張形を添えた。

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   第十一章 血の模倣者

     季節は巡り、また冬が来た。 清次の古道具屋「清(せい)」は、深川の路地裏でひっそりと、しかし確固たる地位を築いていた。看板もない店だが、目利きの客だけが訪れる。彼らは知っていた。この店の主が、伝説の職人「あわい屋お龍」の作品を鑑定できる唯一の人物であることを。 ある雪の降る夕暮れ、一人の男が店を訪れた。 まだ二十代半ばだろうか。痩身で、神経質そうな指をしている。目は爬虫類のように冷たく、まばたきが少ない。名は勇(いさみ)と名乗った。「清次殿とお見受けする」 勇の声には、若者特有の傲慢さと、それを隠そうとする礼儀正しさが同居していた。「あわい屋お龍の『真作』を作ったので、見ていただきたい」 清次は火鉢に手をかざしたまま、顔を上げた。「……言葉が矛盾しているな。『作った』のなら、それはお龍の作ではない。お前の作だ」「いいえ。私は彼女の技法を完全に再現しました。素材、手順、そして『魂の封入』に至るまで。物理的に同一であれば、それは真作と呼べるはずです」 勇は、桐の箱を差し出した。 箱が開かれると、そこには異様な気配を放つ張形が鎮座していた。 素材は黒檀。漆黒の肌に、血管のような赤い筋が走っている。その艶めかしさは、見る者の股間を直撃するほどの妖力を持っていた。 清次は眉をひそめた。 匂いがする。 お龍の作品から漂う、あの甘美な腐敗臭とは違う。もっと生臭く、暴力的な匂いだ。「……素材は何だ」 清次が問うと、勇は薄い唇を歪めて笑った。「気づかれましたか。……若い女の、大腿骨の粉末を混ぜています」 清次の背筋に氷柱(つらら)が走った。「どこで手に入れた」「吉原の投げ込み寺ですよ。身寄りのない遊女の骨など、金さえ積めばいくらでも手に入る」 勇は悪びれる様子もなく続けた。「お龍は自分の骨を使ったという伝説がある。ならば、他人の骨でも理

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   第十章 贋作の都

     それから三年が過ぎた。 江戸の町は見事に復興を遂げていた。 新しい家々が立ち並び、日本橋の往来は以前にも増して活気に溢れている。火事の記憶は薄れ、人々は再び享楽と消費の日々に没頭し始めていた。 その復興の影で、奇妙なブームが起きていた。 「あわい屋お龍」の贋作(がんさく)騒動である。 裏の骨董市場や、好色家たちのサロンでは、お龍の張形が高値で取引されていた。しかし、その九割九分は偽物だった。 どこかの職人が真似て作った粗悪品に、「お龍作」の焼印を押して売りさばいているのだ。 深川の路地裏に、「清(せい)」という名の小さな古道具屋があった。 主人は無口な男で、いつも右足を少し引きずって歩く。そして奥には、決して客前に顔を出さない美しい女房がいるという。 清次と夕霧の、今の姿である。 ある日、一人の若侍が店を訪れた。 身なりは良いが、眼光が鋭く、ただの客ではない雰囲気を纏っている。「主(あるじ)はいるか」 帳場に座っていた清次は、顔を上げずに答えた。「私ですが」「……これを見てほしい」 若侍は、風呂敷包みを解いた。 中から出てきたのは、一本の張形だった。 素材は檜。丁寧な彫りが施され、朱色の漆が塗られている。一見すると見事な出来栄えだ。「ある商人から、『あわい屋お龍』の真作だと言われて三十両で買った。だが……どうも腑に落ちない。貴殿は、お龍の作風に詳しいと聞いた」 清次は、その張形を手に取ることはしなかった。 一瞥しただけだ。「偽物です」 即答だった。 若侍の眉がピクリと動いた。「なぜ手に取って見ない? 触りもせずに分かるのか」「匂いが違います」 清次は静かに言った。「お龍の作品には、匂いがある。漆の匂いだけではない。……血の匂いと、渇望の匂いがするんです」

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   第九章 瓦礫の庭

     江戸の復興は、破壊と同じくらい暴力的なエネルギーで始まった。 火が消えるや否や、焼け出された人々は灰をかき出し、焼け残った木材を拾い集め、バラック小屋を建て始めた。あちこちで金槌(かなづち)の音が響き、材木を挽く鋸(のこぎり)の音が絶え間なく聞こえる。それはまるで、巨大な蟻塚が再生していくような、生々しい生命力の合唱だった。 清次と夕霧は、隅田川の東、深川の外れにある廃寺の軒下を仮の住処(すみか)としていた。 奇妙な同居生活だった。 元武士の浪人と、元吉原の高級遊女。そして、その中心には、桐の箱と、布に包まれた「黒い塊」が鎮座している。「……寒いね」 夕霧が薄い煎餅布団をかぶりながら呟いた。 冬の風が、板壁の隙間から容赦なく吹き込んでくる。「ああ。だが、火事の熱よりはマシだ」 清次は焚き火に枯れ枝をくべながら答えた。 彼の手は荒れ放題だった。この一ヶ月、彼は日雇いの人足として働き、瓦礫の撤去や運搬で銭を稼いでいた。武士の誇りなど、とうに捨てた。今あるのは、夕霧とお龍の遺骨を守らねばならないという使命感だけだった。 夕霧もまた、遊女としての華やかさを失っていた。 化粧道具も着物もすべて焼けた。今は清次が拾ってきた男物の古着をまとい、髪を無造作に束ねている。それでも、彼女の肌の白さと、ふとした仕草に宿る色気は消えていなかった。「ねえ、清次さん」 夕霧が焚き火の明かりの中で言った。「あたしたち、これからどうなるんだろうね」「どうもならんさ。ただ生きるだけだ」「……吉原には、戻らないよ」 彼女は膝を抱えた。 吉原もまた大半が焼失したが、仮設の小屋ですぐに営業を再開しているという噂だった。借金証文が焼けていようがいまいが、楼主たちは遊女を逃がしはしない。「戻らなくていい。お前はもう自由だ」「自由って、飢え死にする自由かい?」 夕霧は自嘲気味に笑ったが、その目は真剣だった。

  • 恋骨(こいぼね)――あわいの刻、愛を彫る   第八章 灰の中のダイヤモンド

     火事が鎮火したのは、三日後のことだった。 江戸の町の三割が焼失したと言われる大火だった。 見渡す限りの焼け野原。黒く焦げた柱が墓標のように立ち並び、まだあちこちから白い煙が上がっている。 清次は一人、根津の跡地を歩いていた。 足元には、瓦礫と灰。 熱気はまだ残っており、草鞋の底を通して伝わってくる。「……あわい屋は、この辺りか」 目印など何もない。だが、清次の足は正確にその場所を覚えていた。何度も通った道だ。匂いの記憶が、彼を導く。 やがて、彼はある一点で足を止めた。 そこは、周囲よりも激しく燃えた形跡があった。漆や油を大量に保管していたからだろう。地面の土までが変色し、ガラス質に固まっている。 清次は膝をつき、灰を掘り返し始めた。 手で。爪が割れ、指先が血に滲むのも構わずに。 何を探しているのか、自分でも分からなかった。骨か? 道具か? ザリッ。 指先に、硬いものが触れた。 石ではない。もっと有機的な感触。 清次は慎重に周囲の灰を取り除いた。 そこに現れたのは、奇妙な塊だった。 黒く炭化した何かが、折り重なっている。 よく見ると、それは人が座禅を組んでいるような形をしていた。そしてその胸元には、小さな獣の形が融合している。 お龍と、文だ。 完全に炭化している。触れれば崩れてしまいそうなほど脆(もろ)い。 だが、その形は崩れていなかった。 そして、その「炭化像」の中心、お龍が抱きしめていたあたりに、異様に光るものがあった。 清次は息を呑んだ。 それは、焼け残った張形……ではなかった。 高熱で溶けた南蛮鏡のガラスと、お龍が体に塗りたくった漆、そして彼女自身の骨の成分……カルシウム……が化学反応を起こし、一種の「釉薬(ゆうやく)」となって、炭化した体の表面をコーテ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status